全部を放り出して逃げ出せたら、どんなにラクか。
あらゆる連絡を絶って、どこか遠くに逃げ出せたらいいのに。
そんなことをあなたも一度は考えたことがあるかもしれません。
が、実際に実行したことがある人は少ないのではないでしょうか。
実は私、やってしまったことがあります。
学校からも、家族からも、友人からも、連絡を絶って、突然国外に逃げてしまったこと。
今日はそんな体験を赤裸々に書いてみようと思います。
何もかも嫌になって飛行機に飛び乗った。行きついた先はタイ・バンコク。
25歳の10月。
大学院の2年生だった私は就活を終えて内定もゲットし、あとは卒業を待つばかりでした。
卒業さえすればみんながほめてくれる未来が待っていて、不安なく明日を生きれる。
頭ではそうわかっていました。
でもある日急に体が動かなくなったのです。
研究は楽しかったけどやらずにはいられないほどの情熱をもってやれているかと言われればそんなことなくて。
人生でやりたいことなんて分からなくても、友人と飲み会なんかしながら騒いでいれば楽しい気がして。
ネット上に転がったコンテンツを消費していればなんとなく日々は豊かな気がして。
でも、そうやって見てくれの良い人生を整えることに終始して、薄っぺらい表面ばかりを取り繕う自分の人生は一体何なんだろう、何のために生きているんだろう…
そんな思いから今まで積み上げてきたものが何もかも嫌になり、気が付けばバンコク行きのチケットを握りしめて新千歳空港にたっていました。
観光しても感動できない。バンコクをふらつく怪しい日本人と化した私。
せっかくバンコクに来たのだから観光でもして気分転換すればいいじゃん、と思うかもしれませんが、当時の私はエスニックなタイ料理にも、巨大な仏像にも、全然感動することができませんでした。
なんとなく感動しそうな場所を探しては向かってみるものの、やっぱり「まあまあだなあ」と思うくらい。
そんな日々を過ごしているうちに、いつしか手持ちのお金も少なくなり、ひたすらバンコクのカオサン通りを往復するくらいしかすることがなくなりました。
そしてついにはバンコクをふらつく怪しいあやしい日本人と化してしまったのです。
逃げるようにチェンマイに。そこで出会ったフランス人の旅人アデル。
チェンマイの罠
そんな風にしてカオサン通りをふらついていたある日、雑然と張られていたとあるバス会社のチラシの中にチェンマイ行きの格安の高速バスを見つけました。
今の手持ちでもなんとか行ける。
バンコクにうんざりしていた私はすぐに飛び乗りました。
そしてバスに乗り込んで12時間後。
バスはチェンマイの市街地には到着せず、末端の街で乗客を降ろしました。
「ここもチェンマイには間違いない。市街地まで行きたいならタクシーに乗れ」
格安の理由はタクシー会社と結託していたからだったのです。
アデルとの出会い
お金のなかった私は、タクシーに乗れず、しばらくぼーっとしていました。
すると一人のフランス人が声をかけてきました。
「あいつらは汚い。私が本当のチェンマイを教えてあげるよ」
彼は名をアデルと名乗り、アジアを20年以上旅しているのだと語ります。
海外で相手から声をかけてくる人は大体怪しいですが、なぜか彼は不思議と怪しい感じがせず、一緒に行動するようになりました。
「人生は美しい。だから急いではいけないよ。」と彼は言った。
彼は数日間チェンマイを案内してくれ、様々な話をしてくれました。
どうしても旅に出たくて空港職員を辞めたこと
始めて旅行したイスラエルのこと
タイの政治経済のこと
旅の資金をつくるためにアジア各地でお店を開いたこと
中国で出会った奥さんのこと
故郷のパリが好きになれないこと
そんな話をする中で彼は“No rush.”「急いではいけないよ」と常々口にしていました。
君は羊ではなく、ハンターなんだ。だから諦めてはいけない。
そして人生は長いのだから、自分自身を大切にしてあなたのプランを立てなさい。
でも急いではいけないよ。人生は美しいのだから。
人生に焦るな、苦しいときは逃げてもいい。
私はこれまでずっと人生に焦っていたように思います。
履歴書に穴をあけないことばかりを考えて、経験してみたこともないことにおびえ、不安で人生を狭めていました。
結果論かもしれませんが、自分の中の違和感を無いものとせず、違和感に従って逃げたから、アデルと出会えたのだと思っています。
だから逃げていい。誰が何と言おうと。
時に逃げた先に、道がつながっていることだってあるんです。
そして、逃げるのだって勇気がいる。
だからその勇気を私は否定したくありません。
もしあなたが色んなことにがんじがらめで逃げられなくなっているのなら、
「急いではいけないよ。人生は美しいのだから」
という言葉を思い出していただければ、少し何か見えてくるかもしれません。