いつからだろうか。
その活躍に心躍らせた主人公たちのような
底なしの明るさにも、
溢れんばかりのガッツにも、
思わず目を惹く派手さにも、
この手は届かないんだと思い知った。
剥き出しの闘志も
触れれば切れるような鋭い知性も
鮮やかな身のこなしも
屈強さも忍耐強さも
あまりに遠い世界なんだと突きつけられた。
それはひどく寂しいことだった。
自分と彼らは違うのだと悟ることはヒーローごっこの最中にチャイムが鳴るような、そんな寂しさにも似ていて。
ひとつずつ知るたびに
少しずつ息が詰まった。
自分はなんなのだろう、とよく考える。
自分の輪郭はひどくぼんやりとしていて
景色のなかに埋もれていくようで
それが怖いような安心なような
掴めない感覚に苛立ちもする。
ふと、かつての恋人に言われた言葉を思い出した。
あなたは飄々としているんだね。
そんなところがいいと思うよ。と。
彼女が発した、飄々、という言葉を
おれはひどく気に入り、
飄々と生きよう、思った。
褒められたから嬉しかった、ただそれだけのことかもしれない。
単純なものだ。
言葉が輪郭を創るのだと思う。
強く生きるには軟弱すぎる
明るく生きるには複雑すぎる
派手に生きるには単調すぎる
そんなぼんやりした自分が世界に溶け出してしまいそうな時
言葉が景色とおれとを分けてくれた。
なれなかった自分の先で
おれは飄々と生きていこうと思う。
柳のようにしなれども折れず
からりと越えていける、
そんな自分を信じてみようと思う。